約5億円の案件受注に貢献した日立のスマート工場ソリューション「H-SPEED」に導入

PRePモデル
導入前の課題
・顧客の業務改革が個別最適になってしまう
・顧客との業務改革に向けた意思疎通がうまく図れない
PRePモデル
導入の効果
・顧客の業務改革の着実な推進
・他の手法と組み合わせることによる相乗効果発揮
・約5億の案件受注に貢献

株式会社日立製作所 吉田 秀信さん

株式会社日立製作所(以下、日立)では、製造業向けの組織改革を支援するスマート工場ソリューション「H-SPEED」を提供しています。H-SPEEDは、日立グループの工場における業務改善での豊富な経験と知見に基づき、2017年に事業化されました。加工・組立型製造業のお客さまに対して、業務改善コンサルティングと、より効果的に業務改善を実行するITシステムやIoT(Internet of Things)を提供するというものです。2017年から現在に至るまで、多くのお客さまに対してコンサルティングを実施し、大きな改善効果をあげています。このH-SPEEDの手法の一つに、PRePモデルを取り入れていただいています。

PRePモデルは、H-SPEEDの中でどういった場面で活用されているのか、H-SPEEDの推進責任者である日立製作所 社会イノベーション事業推進本部の吉田秀信さんにお話を伺いました。

スマート工場をめざす業務改革には、PRePモデルが欠かせない

     H-SPEEDの中でのPRePモデルの活用範囲を教えてください

吉田さん:お客さまの業務改革を支援することは、ToBe像を描くだけでなく、確実にToBe像を実現できるところまで伴走することです。私のチームでは業務改革のためのコンサルティングからシステム要件定義まで行い、弊社のシステム部門に連携することで、ToBe業務を実行できるITシステムをお客さまへ提供しています。

PRePモデルは、AsIs業務課題の根本原因の特定、ToBe業務設計、システム要件定義に用いています。

     PRePモデルをどのように活用しているのですか?

吉田さん:まず、改革の範囲を決め、その後、一つ一つの業務を担当者にヒアリングしながらPRePモデルでAsIs業務を描いていきます。そして、お客さま一人一人が感じている困りごとと、AsIs業務の構造的な問題を鑑みて、根本原因を特定します。

根本原因の特定後は、ToBe像の設計です。ToBe像の方向性を、日立の業務改革の知見やリファレンスモデルなどを参考にしながら、お客さまと協創していきます。お客さまと一緒に考えることが重要です。お客さまの環境に合った実現可能なToBe像にするためには、経営者、変革する業務の担当者が納得しなければ、絵に描いた餅になってしまうでしょう。ToBe像の方向性が定まった後、PRePモデルで業務をシミュレーションして実現可能性を検証します。

そして、システム化です。スマート工場にはIT/IoT技術は欠かせませんPRePモデルで作成したToBe像からシステム要求を出力し、システム要件定義に落とします。システム要件定義後は、弊社のシステムエンジニアに引き継ぎます。

このように、H-SPEEDの活動の一番重要な部分をPRePモデルが占めているという感じです。

根本的な原因が特定できるので、課題一つ一つに対応するよりも、改革を速く着実に推進できる

     お客さまの課題はたくさんあると思いますが、どのように対応されるのですか?

吉田さん:スマート工場をめざす場合、お客さまの工場全体が業務改革の対象となることが多いです。そのため、各々の部門や立場から「仕掛在庫が多い」「納期をなかなか守れない」などといった、さまざまな困りごとが出てきます。一般的には、たくさん挙げられた困りごとに対してリスト形式にまとめ、それぞれに対応する解決策を紐づけていく、という方法を取られることが多いのではないでしょうか。もし、一対一対応してしまうと、全部取り組まない限り、効果が出ないことになります。しかしながら、お客さまには予算があります。全部できないことが多いです。その場合は、費用対効果を算出して、優先順位をつけていくと思います。ただし、選ばれたものだけを実施しても効果が限定的になってしまうでしょう。また、一つ一つの困りごとに応えるだけであれば、どこのIT企業でも実施できます。私たちは、根本課題を引き出すことで、少ない労力(コストと期間)で大きな成果を生むことを第一に考えています。多くの場合、お客さまも課題全てを把握しているわけではありません。自分たちの状況に置き換えてみれば自明だと思いますが、自分が担当する目の前の仕事の業務プロセスやそこで生じる問題は把握できても、業務プロセス全体で自身が担う業務がどのように機能しているかを俯瞰的に把握することは簡単ではないと思います。そこで、第三者である私たちが業務を全体俯瞰して、根本原因を特定しています。

     業務の根本原因はどのように特定するのですか?

吉田さん:実現したいゴールを明確にし、ゴールに対する困りごとを挙げていただきます。困りごとは、一見、それぞれ別々に存在しているように見えますが、実際は関連しているのです。私たちは、困りごとを因果関係で構造化し、ボトムにある困りごとに焦点を当て改革を進めていきます。PRePモデルでAsIsを記載した後、ボトムにある困りごとをPRePモデルの該当する業務に貼り付け、構造分析を行います。PRePモデルで描くと、一目でリスクが高い業務が分かるんですよね。構造分析は、PRePモデルを使う大きなメリットでしょう。このように、お客さまの困りごとと、PRePモデルの構造的問題から根本原因を特定していきます。

PRePモデルで会話するからこそ、重大な気づきを得られる

     なぜ、PRePモデルを使うと業務改革がしやすいのですか?

吉田さん:一般的には、業務を記述するときは、「受注登録する」や「在庫を確認する」などといった作業を記述するタスク視点での表記法を用いることが多いと思います。PRePモデルは、作業ではなく、「受注登録票」という受注登録した結果、生まれる成果物のみを記載します。

業務改革というのは、業務を見直すため、今、実行している業務を廃止する必要も出てくるでしょう。タスク視点で記載された業務プロセスを見て「何を変えるか?」を議論しても、一つ一つのタスクには現場の担当者が紐づいているので、「タスクを減らす=自身は不要」ということになるので、なかなか議論が進まないということになります。もし、コンサルタントが勝手にToBe像を描いてしまうと、現場の反発心が強くなり実行できないでしょう。一方、成果物視点で描かれた業務プロセスで議論すると、「その成果物が作れれば、どんな手段を使ってもいい」という発想になるので、「要る、要らない」といった議論ではなく、「その成果物を作るためにどのように業務を変えるのか?」という建設的な議論ができるようになります。

こういったことから、お客さまの業務改革が進めやすくなると考えます。

     PRePモデルのワークショップでの、実施期間とお客さまの参加者数を教えてください

吉田さん:業務プロセスを描く上で、必要となる登場人物によりますね。生産管理、調達、設計、製造、品質保証、場合によって物流も含まれることがあります。各部門からは、業務の目的を理解している取り纏めの方に参加していただきます。一回のワークショップに参加していただく人数は、記述する業務プロセスに関係する部門すべての方に参加いただくため、1部門2~3人×3~5部門の10~15人くらいが多いです。ヒアリング対象としては、10~15人ですが、該当業務を理解する目的で若い方や他部署の方も参加していただくことがあり、その場合は20人くらい一部屋に集まることもありましたね。所要期間は、だいたい、ToBeのシステム要件定義までで半年程度です。月に2回程度、お客さまとワークショップを実施し、PRePモデルを作り上げていきます。

     複数部門が集まることのメリットはあるのでしょうか?

吉田さん:業務には前後関係があります。自分の担当外の業務プロセスを知ることで、お客さま内で「あ、そういうふうに使われていたのか」や「そこのデータにはそういった意味があったんだ」「だから、このデータがなかなか来ないのか」といった気付きを得ることがあるんですよね。関係者全員が成果物に着目して、プロセスの中での本質的な情報にフォーカスできるからこそ、プロジェクトにとっての重要な気づきを得られるのではないでしょうか。 単に業務フローを描くだけだったら、世の中いろんな描き方があるのでどれでもいいと思いますが、最終的に業務改革を行うならPRePモデルが一番記述しやすいのかなと思います。

     PRePモデルを利用する際に、心がけていることはありますか?

吉田さん:お客さまのプロジェクト責任者から、参加メンバーに、私たちの業務改革プロジェクトに参画してもらう意味付けをして頂くところですね。アサインしていただく方は、組織の新しい業務を決定できる立場の方でないと議論が出来ません。もちろん、このような方々はとても忙しいです。多忙の合間を縫って参加していただくには、トップからの要請が必要になります。プロジェクト開始前に、お客さまのプロジェクト責任者にそこを理解して頂くことを心がけています。また、プロジェクト開始時点では、プロジェクトのゴール設定が重要です。「何のためにこれだけのメンバーを集めたのか?」という意図に納得していただかなければいけません。例えば、「納期遵守率100%をめざす」などといったゴールを設定した場合、「一つの部署だけでは解決できない。だから自分が呼ばれたのか」ということに納得していただく必要があります。設定したゴールに対して、「自分たちは何ができるんだろう?」という目線で、自分事として自分たちの業務を見直す姿勢がなければ業務改革には繋がらないでしょう

他手法と適材適所に組み合わせることで、相乗効果を発揮

     H-SPEEDでは、PRePモデル以外にどのような手法を用いているのですか?

吉田さん:お客さまの困りごとを構造化するところは、TOC(Theory of Constraints)の思考プロセスを用いています。PRePモデルを利用するのはゴール設定した後です。まず、思考プロセスを使いながら、お客さまが発言する困りごとを深掘り、真の困りごとを引き出します。そして、その真の困りごとの因果関係を整理して構造化していきます。こうすることで、困りごとの因果関係から根本原因が見えるので「これが解決すると皆さん嬉しいですよね。じゃあ、これを解決しましょう」といった形でゴール設定ができ、納得感を得られた状態で改革が進められるのです。

また、ToBe業務の方向性を検討する際にはTOCの手法を用いたり、ToBe業務を実施した際の納期遵守率、仕掛量、生産リードタイムなどの効果算出にシミュレータを用いたりしています。

     改めて、PRePモデルの活用効果を教えてください

吉田さん:成果物視点で記載することも勿論ありますが、手順が画一化できるのもメリットと考えています。どんなお客さまでもアプローチは変わらないので、案件対応の多重度を上げることができました。1チーム数人ですが、4~5件/月、平行で案件を推進しています。 また、PRePモデルは手段を記述しないので、TOCなどの他の手法を容易に組み込めることも良い点です。スマート工場に向けた業務改革において、システム化は必須ですが、システム開発費はコンサルフィーと比較して非常に大きいです。そのため、ToBe像を実現する際の効果試算も重要となります。あるプロジェクトでは、リードタイム20%短縮が期待できるという効果を試算でき、お客さまに納得いただいています。PRePモデルで業務が確実に実行できるか検証しているので、お客さまもその効果試算の確度に対して自信を持っていただけたのではないでしょうか。

また、H-SPEEDでは約5億円の案件受注に貢献しています。PRePモデルを用いなければ実現できなかったでしょう。


多くの製造業の業務改革を行っている吉田さん。H-SPEEDの更なる発展にサポートさせていただきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。