設計の3視点と脳の構造

プロセスという言葉を辞書で引いてみると、順序という意味が強いことがわかります。そのため「プロセス」という言葉は、処理や手順などの時間的順序を想起させてしまうのです。それ以上に、プロセスをタスク視点で記述してしまう背景には、人の脳の構造が影響しているという考えかたがあります。

プロセス:
① ことが進んできた順序・理由など。経過。
② 仕事を進める順序(段取り)。過程。工程。

新明解国語辞典

すべての設計手法は、構造的記述、構文的記述、意味(機能)的記述の3つの記述方法のいずれかに分類することができます。逆の見方では、設計手法はこの3つの記述がすべてそろって一つの体系として成立することになります。試しに、思いあたる設計手法がこれらのどれにあたるのかを確認してみると良いかもしれません。

脳学者の養老孟司氏は、設計手法がこの3つに分類することができるのは、それが脳の構造に関係しているからだと説明しています。ヒトの脳の感覚野は下図のような分布になっているのです。

脳の感覚野:
視覚野と聴覚野が交わったところに言葉の意味を知覚するウェルニッケ野(視覚性言語野)があります。会話をコントロールするブローカー野は、それらとは離れた、運動をコントロールする前頭葉側にあります。

目から入った情報は後頭部の視覚野で処理され、耳からの情報は左脳側頭部にある聴覚野で処理されます。視覚からの情報は対象のカタチや構造を把握します。構造の理解は時間をもたない静的な理解になるのです。一方で、耳からの情報は連続的であり時間軸をもった逐次的な理解です。これは構文的理解と言われます。住居を例に考えると、間取りは構造的な理解であり、生活の中での居住者の動線は構文的な理解になります。

注目すべき点は、視覚野と聴覚野とが交じった場所にウェルニッケ野があるということです。ウェルニッケ野は知覚性言語野と呼ばれ、言葉の意味を理解する場所になります。言葉の意味というのは「それは何か」ということです。先程の住居の例では「居間とは何か」、「台所は何をするところか」という機能的な理解が対象の意味的な理解になります。そしてこの意味的理解は、構造的理解と構文的な理解とが交わったところにあるのです。構造的に認識された家の空間を住居者がどのように使用するかという構文的な理解があって、そこが「居間」であったり「台所」であったりと機能的に理解されるのです。そしてこれらの理解は、その上位に目的をもちます。建物は、そこで生活をするという目的のもとに構造的理解と構文的な理解とが交わって「居間」という意味が生まれるのです。