技術の本質とは何か
関連ポッドキャスト
「産業革命は、蒸気機関の発明が起こしたのだ」と言われるように、生産活動における最も劇的な変化は、新しい生産手段の発明によってもたらされると考えられています。実際に多くの業務改善が、AIやIoTといった新しい装置やシステムの導入を目的としています。しかし、この目的の立てかたは正しいのでしょうか。
プロセスという考えかたは、今日のIT社会ではじめて議論の遡上にのぼったわけではなく、古くは、といってもかなり古く、時は200万年前の旧石器時代にまで遡ります。そこでは何が行われていたのか、ここで科学児童書の古典でもある「人間の歴史」でイリーンが描写したマンモスの狩猟場面を引用してみましょう。
『人間たちは、一群となってマンモスの後を追った。一本の槍ではなく、何十本という槍がその毛むくじゃらの脇腹を突き刺した。足も手も、何十本もあるもののような人間の群れは、マンモスを追った。そこで働いたものは、単に何十本という手だけではなく、何十本という頭だったのである。(中略)マンモスの重量をもってしたら人間をふみつぶすことなどは何でもなかった。が、人間たちはこの巨大な獣に打ち勝つために、大地もやっとそれに堪えているようなその重量を逆に利用したのであった。人間たちはマンモスを四方からとりかこんで草原に火をつけた。マンモスは輝く火のために目は狂い、毛は焼けこげて、ただもう火が追いつめる方向へかけ逃げた。が、その火は、人間たちの狡猾な考えによって、マンモスをまっ直ぐに沼地の方へ追って行った。沼地へ落ち込むと、マンモスは沼の上に立てられた石の像のように沈んでいった。マンモスは雷鳴のような吼え声で、大気を震わせながら、足を沼地から抜き出そうとして力んだ。が、そうやって体を動かす毎に沼地はますますマンモスを引き入れた。そうなれば人間たちは、もうマンモスを打ちのめすばかりであった。』
産業革命の起源に習えば、旧石器時代の技術は槍や石斧ということになります。しかし、イリーンの描写が活き活きと描き出しているのは何でしょうか。それは、マンモスを捕えるための一連のプロセスです。旧石器人たちは、マンモスを沼地に追い込んで捕らえるというプロセスを開発したのです。そして、開発したプロセスを実行に移すための方法として、すでに手にしていた火や石器の利用方法を考え、そしてその利用目的に従って、槍や石斧、そして松明などのツールの最適化を図りました。産業革命に時を進めてみると、産業革命を起こした技術は蒸気機関ではなく、チャップリンが「モダン・タイムス」を通して描き出したように”分業による流れ作業”というプロセスなのです。
そこでは生産プロセスが個々の労働者が遂行できる単純な作業単位に分割されました。それによって、労働者は自分に与えられた単純作業だけを理解すればよくなったのです。その結果、人を入れ替え可能な部品として扱うことができるようになり、人件費を極限まで下げることができるようになりました。つまり、新たな生産プロセスと資本主義の目的とが結びついたことが産業革命の本質なのです。つまり、技術の本質はプロセスなのです。
革命を起こす生産技術は、このように新たなプロセスの発明によるのです。素晴らしいAIがあったとしても、それを何にどうやって使うのかというプロセスがなければ、イノベーションは起こりません。
業務プロセス改革は、まさにプロセスの改革であって、新技術の導入ではないのです。