対象に対する理解の仕方から見た「システム」

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多くの言葉が多義性を持つように「システム」という言葉も科学領域での系という意味の他に,体系、制度、方式、機構、組織などの意味がある。辞書で引くと次のように定義されている。

システム:
〔政治・経済・社会などの〕制度。体制
(組織を運営したりする時の)方式
〔自然科学で〕系
〔おもに工学で〕きわめて多数の構成要素から成る集合体で、各部分が有機的に連繫して、全体として 一つの目的を持った仕事をするもの

新明解国語辞典

辞書の定義にあるように、ある目的を持った一連の活動、すなわちプロセスはシステムとしてとらえることができる。つまり、目的を持ったプロセスは、それ自身をひとつのシステムとして分析・設計の対象となる。

このシステムを理解するための視点として、ワインバーグが「一般システム思考入門」の中で思考方法の分類、すなわち対象の理解の仕方によって分類定義している「システム」を紹介しよう。

ワインバーグは、構成する要素のランダム度と複雑さという2つの軸を用いて、機械、集合体と対比してシステムを定義している。

Ⅰの領域:組織的で単純、機械または機械装置
Ⅱの領域:非組織的で複雑、大集団(集合体)
Ⅲの領域:組織的で複雑、システム

ワインバーグの分類では、計算機などの装置は組織的で単純である機械の領域として定義される。機械を構成する要素はランダムではなく組織的に関連しあって動くものであり、要素それぞれの関係性は解析的方法によって記述が可能である。つまり、仕様が記述でき設計ができるということである。

Ⅱの領域にある大集団(集合体)の代表的なものに気体がある。気体は構成する分子それぞれは独立に動いており(お互いに影響し合わない程度に疎である)、構成する分子のある時間における空間上の位置が確率的にシミュレートされる。そして、集団を構成する数が多ければ多いほど統計的予測の確度は高くなる。一方で、機械を記述するときのように、気体を構成する全ての要素の1つひとつの確率的な動きをから総和を記述しようとすると計算量が2乗以上の速さで爆発してしまう。実際に1センチ立方メートルに含まれる気体の分子数は10の19乗のオーダーであり、計算量的に不可能である。このような大集団は、集合体を構成する要素の微視的な法則を基としつつ集団全体がマクロ的な性質として統計的方法によって記述される。つまり、全体は現象レベルで統計的にしか語ることができないのである。プロセス設計の際に考慮の対象となる市場や社会なども集合体であり、解析的に記述できるものではなく、統計的に語られる対象となる。

ワインバーグは、機械と大集団の中間にあって、解析的に記述するには複雑すぎるが、一方で組織的な振る舞いをするため統計的な記述対象でもない領域を「システム」としている。生産的なプロセスは、設定された目的のもとに組織化された活動であり、構成される要素数も大集団ではなく、記述可能なレベルにある。一方で、定常状態では安定していても、例えば、生産品目の優先度が変わったり、要求品質の変化に対して対応が求められるように、条件の僅かな変化が出力の大きな変化として現れるような非線形性を持つため、構成要素の単純な和として記述することができない。このような観点から、生産的な活動としてのプロセスはシステムとして理解すべき対象となる。PRePモデルは、業務や開発などの生産プロセスを、ある目的のもとに人や機械が組織的に連携して活動するシステムとして記述し理解しようというものである。